• 本屋は力持ちなので

    不意の言葉に思わずほおは緩み

    背筋はしゃんと伸びる心持ちになる

  • 人から人へとつなぐ

    一期一会で次はないかもだけど

    顔は合わせなくとも人がつないでくれる

    街の人になるとはこういうことなのだろう

    感謝は尽きることはなし

  • 列車は乗せていく。人や、物。空気。目に見えない想い。思い。早いにこしたことはないが、どうも早く点から点へと動いているとトキを置き去りにしてしまっている感覚になる。いや、むしろ、これは、トキから置き去りにされているのだろうか。浦島太郎某のように。扉が開けば、ぼわっと。白い煙に包まれてしまう。モヤが晴れる頃には、私の白髪はどのぐらい増えているのだらうか。

  • 内からみたらしさと、外からみたらしさと言うのは往々にして乖離するものであって。それは人であっても街であっても同じように起こり得る事態で避けようもない。

  • issue40

    日常なんてものはなく

    珈琲のかおり 頁をめくる指先 心の中で文字をとなえる 耳に届く無音のおと 刻刻とゆらぐ光のかーてん

    死への恐怖 飛び交う怒号 悲しみの暮れ 鉄の臭い 節くれ立つ身体 最後の夕日 最後の月 最後の時

    日常なんてものはなく

  • issue39

    言葉の限界を知る

    言葉の限界を知った今を生きる哲学者は

    詩人となる

    同じ言語を扱うにせよ

    重みを知る一言と何も知らぬ一言は

    やはり響きが違うのだ

  • issue38

    視線を感じる

    首のない亡霊

    衣服の抜け殻

    いない人びと

    今をわたしは

  • issue37

    私は今本を読んでいる

    線の繋がっていないへっどほんを耳に

    電波で繋がっているすまーとほんをポッケに

    音楽は何処かからやって来て

    どうにかして耳元へやって来ている

    子供達は魚が切り身で泳いでいて

    とりにくがどんな羽とくちばしを持っていたかを知らない

    出されたものをそのまま食すような大人

    にはなりたくないものだが

    大人を見て育つ子供の背中を見るまだ実体なき子供たち

    大人の背中は意外と小さいものなのだ

  • issue36

    能面は左右で非対称となっていて、付けた際の右側は人間性、左側は神仏性を表すという。そして生物学では右脳が感情の処理に優れているので、感情が出やすいのは左側の表情だという。左右非対称の美、不完全の美はまことに日本人の美学に通ずるものと思われるが、感情を表しやすい左側が神仏とは面白いじゃないか。

  • issue35

    花束を胸に抱いて寝ることの

    なんて幸せなことか

    別れの言葉でなく

    感謝の手向に

    私とあなたに