採血をする時の掛け声が聞こえる。はい、はい。淡々と返事をするが、心の中は気が気でない。ハリが怖いとか気分が悪くなって卒倒してしまうとかそんなのではない。ぼくの血はまだ赤いのだろうか。
古びたSF映画。主人公の男は眉目秀麗で、公私共に充実した学園生活を送っていた。ただ、身体が生まれつき悪く、紫外線を浴びないよう長袖と手袋を欠かせなかった。そして毎朝、薬を煎じて飲んでいた。誰もが羨みそして妬むであろう立場の彼を嫌っている人間はいなかった。彼はその頭脳と容姿に驕ることなく、周りを見下すことなく誰とも柔和に、分け隔てなく接していたからだろう。しかしそんな日々も唐突に終わりを告げる。唯一彼のことを嫌い、そのことで周りから嫌われ者扱いされていた同級生が獰猛な犬を彼にけしかけた。単純な嫌がらせ程度のつもりだったのだろう。実際、服をしっかり着込んでいたおかげで多少の怪我で済んだが、事態はそれよりももっと深刻になる。彼が人間ではない存在だとバレてしまった。なぜなら、放課後のマジックアワーに差し掛かった藍色の中で、手袋から滲み滴る彼の血は青色に淡く光っていた。それを見てしまった同級生は悲鳴をあげ、近くの交番へと転がり込み警察と共に彼の元へ戻る。彼は逃げることもなくその場に姿勢よく立ち尽くしていた。血は固まり、光りは失せていたが煌めく宝石のように地面に散らばっていた。彼はどうしてよいかわからず戸惑う警察と共に去っていく。場面は切り替わり、秘密裏に組織されていた宇宙警察に身柄を引き渡された彼は処刑されることが決まった。理由は地球侵略。しかし、それは警察がでっちあげたもので、彼は最後までただ人間として生きていただけだと言っていた。宇宙から来たのではない?それでは最初から地球で生まれていた?それとも気付かないうちに宇宙人とすり替わっていた?物語は不完全燃焼で終わりを告げる。
このB級映画を一緒に見ようと言い始めたクラブの連中はさすがB級!オチなし!ヤマなし!と文句を楽しそうに言い合う。その中で、ぼくとクラブ長だけは静かだった。ぼくはクラブ長の、線が細い輪郭から目が離せなくなっていた。彼はクラブで皆が集まる時、よくハーブティーを振る舞ってくれていた。祖母のレシピで、疲れをよく取ってくれるものということで。青い。映画に出てきた飲み物と同じ色の。飲み物を。彼は誰とも目を合わせず、ただ窓の外を眺めていた。夏の長い昼がちょうど短くなり始める時期だったと思う。
彼は学期が終わる前に親の都合で転校となり、その後の消息は知らない。しかし、それから数十年経ってビール腹に悩み始めた今になっても思い出す。僕の血はまだ赤いのだろうか。ちくっとしますよーと慣れた様子で針を刺す看護師。勢いよくチューブの中を巡る血は、なんのことはない。