椅子があるということは、そこがどんなに荒廃していようと、神秘的だろうと、屋内や屋外だろうと、海の底に沈んでようと、木星の表面を漂っていようと、二足歩行を始めたおかげで腰と頭を痛めやすくなった生き物がいるのだろう
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この水が
この滴る雪解け水こそが
閉ざされたましろな世界を開く
生命の奔流となるのだ
覗く青空 伸びる若芽
陰鬱さにかしらをもたげていた心さえも
今日ばかりは陽の目を浴びることができる
とつとつと奏でる音よ
わたしたちはいま 春を迎えようとしている
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爺さんたちの討論
サラリーマンのデスクワーク
おっちゃんのタバコタイム
黒ネクタイに首を吊られすする苦い珈琲
歯医者のようなオルゴールBGM模様の上に模様がかぶさる
遠い記憶への引力
そうだ
あの人には十二銭用意してあげよう
何かと入り用だから、ね
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全てが挑戦で
全てが新鮮で
ローマ字を覚えてたどたどしく文を送るのもそうだし
自分より身長が倍の人がひしめく店に入るのもそうだし
鼻をつく匂いにおそるおそる口に運ぶのもそうだし
レンタルショップでCDを借りてパソコンに転送するのもそうだし
iphoneはないからPSPで学校帰りに音楽を聴くのもそうだし
人によって携帯の着メロや光る色を変えるのもそうだし
全てが体験で
だけどもう再現で
おっと、少しばかり記憶を掘り起こしすぎたようだ
過去にとらわれているあいだの横顔はどこかもの悲しいから
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死について考えるとき
そこに意味を求めてしまう理性は
野垂れ死ぬことを恐れ
いままでの自分の生には
これからの自分の生には
大義があるのだと思い込みたいのだが
死とは結局のところ
つむじ風のように現れ
凪いで
終にはあの人を連れ去ってしまうのだ
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首を前後に揺らす姿はコマ送りのよう
黒い地面に落ちる熟れすぎた果実をついばむ上で
青空に伸びる黒い節々にとまるトリは朝日を浴びて軽やかに羽ばたく
なぜ同じ羽を持つのにぼくらは鈍く光るばかりなのだろう
他の皆は下を見るばかりでそんなことには気付きやしないことに気付いたぼくはきっと何かが変わる
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人から人へとつなぐ
一期一会で次はないかもだけど
顔は合わせなくとも人がつないでくれる
街の人になるとはこういうことなのだろう
感謝は尽きることはなし
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列車は乗せていく。人や、物。空気。目に見えない想い。思い。早いにこしたことはないが、どうも早く点から点へと動いているとトキを置き去りにしてしまっている感覚になる。いや、むしろ、これは、トキから置き去りにされているのだろうか。浦島太郎某のように。扉が開けば、ぼわっと。白い煙に包まれてしまう。モヤが晴れる頃には、私の白髪はどのぐらい増えているのだらうか。
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内からみたらしさと、外からみたらしさと言うのは往々にして乖離するものであって。それは人であっても街であっても同じように起こり得る事態で避けようもない。
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日常なんてものはなく
珈琲のかおり 頁をめくる指先 心の中で文字をとなえる 耳に届く無音のおと 刻刻とゆらぐ光のかーてん
死への恐怖 飛び交う怒号 悲しみの暮れ 鉄の臭い 節くれ立つ身体 最後の夕日 最後の月 最後の時
日常なんてものはなく