• 幽霊って実は足があるんだ

    その代わり、顔の方はおぼろげで

    見ようと目を凝らしても首から上はもやがかってて見えないんだ

    喉仏があるから、きっと男なんだろうけど

    いや、それだけで性別は判断する事はできないな

    幽霊とは魂なのだから

    そこに肉や骨としての男や女はいないのだろう

    げんにその幽霊は立派な喉仏を宿しているが赤色の華奢なスカートを履いて黒光りした靴を履いている

    不思議なもので、魂と服とは切っても切れないそうだ

    現代の幽霊たちよ、カラフルで居給え

  • 僕は。いや、あたしは。気が抜けてしまう。唇をしっかりとあわせて、わたしは。そう。わたしはずっとこの問題に頭を抱えている。選択肢があるようで、じつはまったくない、押しつけられてきたわたし。なんで?とだだをこねる事はもう許されないと知ったあの日から、わたしはわたし。らしさとは呪いだ。そして、その呪いが解放された時、真の自由が待っている。そのはずだったのに、彼女はいなくなってしまった。ニセモノになりきった日々を癒すのではなく、否定することになってしまった。薬はもとは毒なのだ。その量や使い方を誤ると、人によっては死に追いやってしまうものなんだと、今さらながら気付かされる。ああ、でも後悔しても遅い。わたしは、重くじりじりと痛む右腕に制服の袖を通して、カバンを肩にかける。ニセモノの日々はまだ続きそうだよ、アオイ。

  • 彼らはそのやり方しか知らない

    親に教わったわけでもない

    他の誰に教わったわけでもない

    声をみんみんと張り上げる

    産まれながらにしてそのやり方しか覚えてない

    彼らの声を聴くものは私以外にはいない

    ただただ木々と岩に滲み入る

  • 流れてくる音楽。というのは九割ほどが録音されたもので。人の回転率を上げるためだったり。逆にゆるやかにするためだったり。デジタルな音が電波に乗って人々をどこか遠くへ運ぼうと耳に届いてくる。残りの一割。生々しい音。浴びるために九割を変わることのない音の中で過ごす日々。その九割に割く価値の比重は、一昔前よりも輝きを失いつつある。ビデオはラジオスターをキルするに止まったが、今回は果たして。

  • 木々に囲まれ水が流れる場所は如何に涼しいかと思いきや、汗は滴り落ち、服が前とうしろと肌に密着してくる有様だ。お盆の中にさらにお盆を用意したような、日本の夏のいやらしいところが凝縮されている。並べられた本の背と横腹をなんとか目で追っていくが注意力は散漫。蝉の声と砂利を踏み締める音がこだます。数冊を小脇に抱え、西日に焼き尽くされないよう日陰に避難していると放送が流れる。

    「かき氷がタイムセールです」「330円が230円です」「数にかき氷がござい…」「数に限りがございますのでお早めに」

    子供の声の放送は少しはにかんだ様子だった。数に限り…かき氷…その言葉のリズムを口の中で反芻してみる。

  • お魚さんをほおばりながらああ海の幸に感謝!と思えば、母なる大地と言えど母なる海とはあまり耳に馴染まないことに気づく。男尊女卑が浸透する以前は大地母神のように女性の性を信仰対象にする時期もあったが、そもそも大地に感謝をするのは人間ぐらいなものだとさらに気づく。母は自分を文字通り腹を痛めて産んでくれた女性のみと言うのに、我々生命を産み育む大地を母に捉えて感謝し信仰するのだ。動物と呼ばれるモノタチがまるで恩知らずと言わんばかりに。

  • 人の細胞は4ヶ月ですべて入れ替わるという。

    それはあまりに体感しにくいが、人の筋肉は2週間前の努力が遅れてやってくるともいうらしい。

    これはわかりやすい。人の身体が過去の連続からなりたっていることが。変化した自分を自分と疑わないことが。

  • 白衣を着て虫取り網を片手に持つ

    一生に一度あるかないかの機会にトンボを捕まえる

    網の中で死んだかのように動きを止めた姿

    どこを持てばいいのか逡巡しながらも、羽の付け根ではなくその少し後ろのピンとしたところを持つ

    すると、トンボは機械仕掛けのおもちゃのように一定の動きを繰り返す

    上体を曲げては伸ばしてまげてはのばして

    腹の節目も延びては縮みのびてはちぢみ

    その生き物の生々しさと虫の機械らしさに脆さを感じ取る

    外に出て解放してやると姿勢良く空へとかえっていった

    幼年の姿を重ねるがあの頃は無邪気だった

    童心にかえることはあれど無垢な気持ちまでは取り返せない

  • 生きるということは食べるということであり、食べないということは生きられないということです

    私はそう思うたびに、あの日先輩たちが奢ってくれた焼肉を頬張りながら、腰が海老のように曲がった銀色の団体が酒盛りをしそれは大きな声で笑い合っていたのを思い出さざるを得ないのであります

  • 木の吐き出す匂い

    生き乍らか死に乍らか

    皮を剥がれムクなまま吐き出す

    そこには青さもなく白さもない