memory5
夏は猛々しい暑さを更新してくるが、冬はいたって冷静に、堅実に寒さをもたらしてくる。安堵とともに、遠く地球の果てで大地がなくなり、生き場を失うシロクマが頭の中に浮かんでくる。クマが白い世界で白くなったようにはいかないだろう。この変化の速さについていけるのは地球で人間ぐらい…いや、人間は自分たちで作ったものにすら翻弄されている。時間の問題だ。
毎朝、冬の装い(ほとんど黒い)に袖を通すたびにそんなことを考える。今日はより一層冷え込むらしい、いつもより防寒具を増やす。手袋も勿論黒色で、肌にしっとりと馴染むように薄手のをつけている。そして、なんとはなしに、指輪を手袋の上からはめてみた。素手では親指でも緩くてつけていなかった指輪。黒色の手に銀色が光り、はっとする。そこに生き物としての温度は一切なくなり、ただ手の形を模した人工物と輝きだけが存在していた。人間が服に直線を求めたり、皮を塗装したり、形を変えたり、人工物≒無生物への渇望の最終形態の片鱗がそこにはあった。