memory3
登校には必ず裏道があって、下校にも裏道があった。裏道の方が近道ができるとは限らず、大抵は回り道で狭く、上り下りの坂道だったり、階段だったりする。裏と言われるぐらいなので、オトナに見つかれば怒られることは避けられない。それでも、抗い難い引力を、その小さな入り口から感じる。だからそこを通ると決めた時はいつも、自分の半分はあるランドセルを前に抱え込み、小さい身体をさらにくーっと縮めて通るのだ。一本道の時もあれば、ひとつかふたつ、分かれ道がある時もある。うごめく気配を感じて横を見やれば、人家の窓が目の前に現れて息を忘れたりもする。はやる気持ちを抑えつつ前進していくと、急に視界は広くなる。あたりをくりくりと見渡す。冒険の終着とは不思議なもので、見慣れたいつもの道に戻ってくるのだ。少しの落胆と安堵を感じ、誰にも見られていないのを確認して這い出る。振り返ってはいけないよ。ある映画で聞いた言葉を反芻する。すると、後ろに背負い直したランドセル越しに、またおいでと聞こえたような気がした。
数年後、裏道を挟んでいた建物は取り壊され、そこはただの道になっていた。あの声の主は、次の裏道へと引っ越したのだろう。
オトナになった今の私は、路地裏をちょいっと覗き、するすると入り込んでいくのが、相変わらず好きだ。