issue 25
研いだばかりの鉛筆の切先が、まだ柔らかさを残す手のひらにうずりと入り込み、黒い種子を残す。
見れば黄色の手のひらにぽつりと黒い点。
残りの人生をまだ痛みの残るこいつとともに過ごすのかとやや不安になる。
しかし、申し訳なさそうに残っていた黒い点は手のひらから出て行ったのか、それともさらに奥深くに潜り込んだのか、気づけば跡形もなく消えていた。
右の大腿をおおきく這っていた火傷痕。
身長と手足の長さが数倍にもなった今では、目を凝らして見ぬことにはわからないぐらいに小さくなり、体の隅っこで息を潜めている。
鬼ごっこで駆け回り、膝小僧にできた縫うほどの擦り傷も同様である。
目に見える傷たちはやがて目に見えなくなっていく。
それでは最初から目に見えない傷は?
いつどこでつけたかわからない引っ掻き傷がじくじくと傷んだり、静かにヒビの入る音を人は聞く。
そしてなんとか日にち薬で癒えてきた傷跡をこじ開け、再びほとばしろうとする鮮血を止めるにはどうすれば良いのだ?
止め方がわからないので、まぶたを閉じるがそれでも溢れてくる。
涙は透明な血液だ。