memory22
平らな人工物の上で、虫がもがいている
もがくのは天地が逆さまになっているからだ
一度世界の理からはみ出てしまうと、元に戻るのは今のご時世、彼らにとっては困難だ
このまま干からびるか突然の暴虐にみまわれるかは時間の問題だった
もがく手足に指を添えると機械的な動作でしがみついてくる
ちりちりとした感触が肌理を這う
カンダタが散々人を殺して蜘蛛を助けることで死後情けをかけてもらうように、情けは人のためにはならないが虫のためにはなるのだろうか
自然の木肌に彼を解放してその場を立ち去る
翌日、なんとはなしにその木を覗いてみるが抜け殻は特に見当たらなかった
翌々日、同じ道を歩いていると足元から音が飛び立つ
その跡を覗き込むと、そこには抜け殻が一つ、綺麗に平にならされた人工物に必死にしがみついていた