memory17
ネパール料理屋は落ち着く
メニューを眺めている間、眠そうな男性店員はボールペンをカチカチと鳴らしてその感触をもてあそんでいる
カレーといえばインドを思い浮かべてしまうが、昔のカレーのCMでインド人もびっくり!のようなフレーズを使っていたのが根深く影響しているのだろうか
子供の甲高い一声が店の奥から響き渡りレゲトンに乗せていかにもなインド然、ネパール然とした音楽が流れる
頼んだザクロのラッシーは姿は同じだが喉がやけるような甘さのマンゴー味を隠れ蓑にして出てくる
無理矢理狭いテーブルに料理を次々と乗せるものだから食器が他の食事を少しかじりとっていく
辛さはいつも中間。ネパールと日本の狭間
記憶よりも大きいナンを黙々とちぎっては食べを繰り返していると、足元に小さい車がコツンと止まる
小さい救急車
やってきた方向を見やると5歳程度の子供が床に座ってこちらをにこにこと見ている
Okay, I got it.
伝わってるかわからない拙い英語と共に車を子供に向かって発進させる
英語を喋る時その言葉はただの音の連なりでしかなく、その言葉を喋る時僕は外人然として別人のようになる
子供と僕の間の半分で車が緩やかに止まってしまったのは大人と子供の差だろう
隣のテーブルではオーダーを再度取り直している男性店員が女性店員に異国の言葉で、おそらくたしなめられている
子供はにこにことしたまま車を取り、またこちらに向けて走らせる
しかし今回は勢いがよすぎて救急車は途中で斜めに傾き横っ腹を擦りながら回転して止まる
僕はOhhhと言いながらその車を立たせてやり、うまく指先で回転を加えて横転せずくるくると子供の元にまた発進させた
その光景に目を輝かせて、その子供は床で車を回転させ始める
救急車はくるくると回る
正確には救急車の形を模した四角い固形が回る
ネパール料理屋は落ち着く
純粋で朗らかで、細かいことを気にしない
これが先入観だったり、文化をネパール料理屋の彼ら個人に着せているだけなのかは正直わからない
彼らも自分たちがこの国でどのように見られ、それに合わせて仮面をかぶっているだけかもしれない
僕はネパールという国に行ったことがない
四角い固形はくるくると子供の元を離れて、救急車にまた戻って僕の足元に落ちていた