issue16
煮詰まった空気と頭は、どろどろと甘ったるいすえた匂いを発しているように思われた。
筆を置き、新鮮な空気を求めて軒先に出る。
夜風が前から後ろへと体を撫でていき、少し冷えた頭で、言葉が降りてくるのをいつものように待つ。
いやまて。
言葉が上がってくるのではなく、”降りてくる”?
胸の、腹の底でたまっているおりのようなものが、いままさに言葉になろうと喉元をせり上がってくる感覚は理解できる。
そもそも言葉を考えているのは私のはずで、その私は胸の左側ではなくこの頭の中にいる。
その私に”降りてくる”ということは、頭よりさらに上から来るほかない。
上?
誰かの視線を感じ、思わず上を見る。
真っ暗な夜空が広がり、星々はきらめきを放っている。
厳密には、空というよりは宇宙が広がっている。
宇宙の隣にはまた別の宇宙が寄り添っていて、今も連なりは増えている。
その億兆京那由多の空間から言葉は降りてくるとでも言うのだろうか。
それとも、この地球を作った存在が地球の外から言葉を放り投げているのだろうか。
星々の輝く点は、彼が夜空に針をつついてできた穴だ。
その穴はこの世界を覗くためであるが、言葉も、音もそこから日々漏れている。
私たちはその音漏れを幸運にも授かっているだけに過ぎないのかもしれない。
そんな想像を膨らまし、私はまた書斎へと戻るのであった。