issue12
あの頃はどんな時に付けていただろうか。
熱が出て、親に連れられていつもの診療所で順番を待つ時か。
給食を運び、白衣から漂うよその家の洗剤の香りにしかめ面をしている時か。
理科の実験室で、仰々しいゴーグルを曇らせている時か。
表情を取り繕うのが煩わしくなって、何事にも反抗していた時か。
自分の吐いた生暖かい空気をまた取り込み、循環しているさまは、案外嫌いじゃなかった。
今では当たり前のように、春夏秋冬、着けている。
そういえば、子供のくしゃっとした笑顔を最近、見かけていないことに気づく。