memory2
呻き声と共に、泥のような眠りから覚める。体の至る所で昨晩の騒ぎがまだ響いていた。暗いが、かろうじて見覚えのある廊下は私のワンルームに通じていて、どうやら自宅にはなんとか戻って来れていたようだ。分厚いカーテンを開けると、空は光と闇の境界線上にいた。淀んだ空気を追い出したくて、窓も開け放つ。くるくると冷たい風が首元から身体へと流れ込み、思わず首をすくめる。鳥たちの囀りが、朝だということを知らせてくれた。ふと、視界の端にあった赤いモノに目を見やる。表に出ていたバケツには薄氷が申し訳なさそうに浮いている。そこからひょろりと伸びている紐を引っ張ると、氷は一瞬持ち上がるが、ぐぐぐと重力に負けて、やがて元の姿に戻っていった。手に残されたのは一本の線香花火。光をたわわに実らせていた頃の面影はなく、先端は黒く焦げ不恰好になっていた。熱病に浮かされたような夏が遠く、思い出される。片付けるのを忘れていた訳ではない。が、故意でもない。
私はしばし逡巡し、バケツの中に放り投げると、じっという音をたてて抜け殻はまた沈黙した。