ビーズを落としたような乾いた音がコンクリートの上を転がっていく。音はかわいらしいが、半歩ほど離れた先に落ち着いたその緑色の物体を目で追う。親指の爪程度の大きさのムシから予想だにしていなかった音に一瞬困惑する。ああ、だからカメムシだなんて仰々しい名前なんだと感心するが、それには心底辟易としていたのですぐに視線をそらす。ちょうどいい気温の季節にいい天気、それはもういい気分の時にいつも彼らは水をさすように現れた。それも大量に。何を言うわけでも動くわけでもなく。扉の周りに他についていないかよく確認し、開けるとすぐに後ろ手で扉を閉める。自動で点灯する玄関灯がまた今日も出迎えてくれ、自分の帰るべき場所に帰ってきた安堵を噛み締めながら長い吐息をひとつ。すると、間延びした声が部屋の奥から聞こえてくる。はっと我に帰りただいまと声を返し、特売で買いこんだ戦利品たちをレジ袋の中でガシャガシャ言わせてリビングへの扉を開ける。今日も大量だね。感心半分呆れ半分の顔がソファの上からこちらを見ている。どうせあたしは特売の女ですよと口はへの字眉間に皺よせ見返してやると彼はあわてて元の作業に戻った。手のお手入れはいつも入念で、確かにあたしはその手に惹かれるのだが、他にやることはないのかと小言も言いたくもなる。さて、冷蔵庫に詰めていかないと。あたしより一回り大きくて白い、まるで棺桶のような箱と対峙する。ちっちっちっ。乾いた音がフローリングの床を跳ねる音がする。まるでビーズのような。おそるおそる振り返ると、彼は何かを手でもてあそんでいるところだった。ダメ!!!思わずレジ袋が手から離れる。手と足は脳からの指令がうまく行き届かずもつれるように動いて、頭の中ではああ特売の卵、今ので絶対何個か割れたとか冷静なことが浮かんでいる。そしてなぜダメなのか、心底辟易しているのかふと不思議に思う。何でだろう。そうだ、イヤなにおいがするからだ。身の危険を感じると発すると言われていた。でもあたしは実際に嗅いだことはあったっけ?やっと指令が行き届いた腕を必死に伸ばし彼の手を押さえようとしたが、遅かった。肉球がそれを確実に捉えると、音もなく煌めく白煙が手元から溢れる。あたしは思わず鼻を服の袖で覆ったが、どうやら様子がおかしい。香りに色はないはずだが、色とりどりのビーズが煌めくように、いい香りがする。もしかしてあたしの鼻だけおかしいのかもと犯人の顔を見やるが、彼は心地よさそうに伸びをするとニャオとだけ呟いた。