すれ違い様に声をかけられる。時の流れは足跡荒く、昔は美男だったであろうその老人は、酒で赤くなり、シワやできもので凸凹とした顔をしていた。そこに、うすら笑みを浮かべている。あんた、◻︎⚪︎(貴方の仕事上の立場をここに当てはまるとよい)かい?ええ、そうですが、何かお困りごとでしたか?ないけど…そうかそうか。
ざらついた空気を残される。老人のうすら笑みは鋭角を増し、その様相と返答に思わず眉をひそめてしまう。
それでは、いかがしましたか?いやね、まさかこんなところに◻︎⚪︎がいるなんて、あんた、もっといい場所なかったの?老人は立て続けに言う。若いのに。
お客様、失礼ですね。
海馬体がおぼろげな楽しい記憶を貫いて、けたたましい音のする、苦く、鮮明な、泡立つ記憶を引っ張り出す。全身の逆立った毛穴から、黒い気がふすふすと渦巻いて溢れる。この手合いは話を続けてもムダだ。愛想笑いをする時期はもうとうに過ぎ去った。早々に離れる。
それが一周目の話。期待なぞしていなかった二周目がやって来ると、老人は馴れ馴れしく肩をポンと叩き、こう言った。悪気はなかった、勘違いしないでくれろ。な?
こちらの顔をわざわざ覗き込む様がささくれ立つ感情を逆撫でしていく。
お客様、失礼します。
決別の言葉だけを残していく。ザマアミロ。身から出た黒い気はあたりを漂っていたが、やがて霧散していこうとする。次第に、自分が確かに、なぜこんなところにいるのだろうとハッとする。どこか別のばしょに。その答えを自分は知っている。そしてあの老人も知っていた。たった、それだけのこと。時の流れは足跡荒く、しかし足跡はこれからも続いていく。