昔の人間はね、元はひとつだったんだよ。そう、文字通りひとつになって必死に生きていたんだ。そしていつからか、羽も持たないのに空を渇望し、終いには上を目指すようになったんだ。…なんでだろうね、昔から煙とバカは高いところが好きと言うけれど。長い目で見れば同じことを何回も繰り返してしまうのが彼らのサガで、まさにバカなんだろうか。昔は追い出したり流したりなんかもしたけど、世代を重ねるごとに記憶が薄まって、身をもって学んだことも抜けていってしまった。何度もやり直す機会は与えてやったのに…!
小刻みに揺れ始めた右足に視線を留まらせていることに気づくと、彼は自嘲気味に笑う
そんなに意外かい?僕だって彼らと同じ姿形をしているんだから、同じようにイライラもするし癇癪だって起こしたくなるさ。だけど今回はぐっと堪えて、お望み通りソラの彼方に飛ばしてやる代わりに、彼らをひとつではなくした。そう、彼らが他の動物たちは持たない言葉を細分化してやったんだ。良いアイディアだと思わないかい?色形も違う彼らを、ひとつにまとめる役割を果たしていた繋ぎ。それを取り払えば、上を目指すこともなくなる。そら、僕の目論見通り。彼らは言葉が通じ合わなくなるや否や、疑心暗鬼になり、互いをいがみ合い始めた。中には言葉が通じ合うのもいたりするから、徐々に群をなした。面白いことに、色形である程度群をなす一定のパターンがあったようだ。
さあ、これで引き継ぎは終わりだ。僕は死んだとうそぶく人間もいたらしいけど、それは間違いだ。今、ここで、初めて死ぬんだ。そしてこれからは君が僕の役割を果たすんだ。君を通してのみ彼らはまた一つになれる。その果てに彼らが今度はどんな姿を見せるのか、見届けられないのは残念…。…いや、これは本心ではないな。残念どころか、むしろ、せいせいしてる。無責任と思われても仕方ない。しかし、これこそが私なんだ。